2018年10月26日(金)~10月27日(土)
テアトロコント vol.31 渋谷コントセンター月例公演(2018.10)
主催公演
公演詳細
かもめんたる:正気を保つ狂気
いわゆる「お笑い芸人のコント」のベーシックな構造は、まともな人が変な人に困らされる、というものである。ドリフの『威勢のいい風呂屋』も、ごっつのキャシィ塚本も、近年の『キングオブコント』決勝戦で披露される多くのコントも、大きく分ければこの構造を採用している。
そういう意味では、今回かもめんたるが披露した三本も「お笑い芸人のコント」としてはベーシックである。三本とも、槙尾ユウスケ扮する「まともな人」が、岩崎う大扮する「変な人」に困らされる。それなら観客は安心して、強固な構造の中で笑って楽しめるのかと言うと、そうはならない。志村けんの『変なおじさん』はゴールデンタイムのテレビで放送できるが、彼らのコントはどうだろうか。岩崎が扮するキャラクターには、「変」の範疇を超えた「ヤバさ」があるのだ。
ここで言う「ヤバさ」とは何か。「常人には理解できない論理を振りかざすが、本人の中では完全に筋が通っている」ということだ。
また『変なおじさん』の話をさせてほしい。『変なおじさん』の論理は明白である。小学生の視聴者にも理解できることだが、彼は女性にいたずらをしたいだけだ。まともな我々はその論理に共感はできないが、理解はできるのである。まあ、変なおじさんならそうするよなと。
一方、岩崎が扮するキャラクターに対しては、共感どころか理解もできないのである。
今回披露されたうちの一本『I 脳 YOU』で岩崎が演じるのは、本業がよくわからない、しかし金回りの良さそうな茶色い長髪の男性である。男は槙尾が勤める喫茶店にやってきて、自分は常連だと言い張る。新人である槙尾が戸惑うなか、男は「この店で寝袋を売るべきだ」などと、めちゃくちゃな論理を振りかざしていく。
ここまでは「変」の範疇かもしれない。しかし男のある行動で、わたしは論理を理解する気を失うことになる。
男がとある自説を開陳するなか、突然「いまから一分寝る」と言い出すのである。これまで、男が疲労していたという描写もない上に、自説の途中も途中、まったく一区切りが付いていないタイミングで、男は一分寝るのである。しかも、男の中では完全に筋が通っているようなのだ。
わたしは爆笑した。爆笑したが、恐怖も感じた。もしかすると、わたしの中でこの感情を上手く処理できなくて、爆笑することでなんとか平常心を保とうとしたのかもしれない。「コント」として上演されていたから笑ったのであって、「演劇」であれば恐怖したかもしれない。
極端に言えば、「突然一分寝る」ことがあり得るなら、「突然店員を殺す」こともあり得る。男の中で「寝る」と「殺す」のあいだに距離があるのかどうか、それすらもわからない。
お笑い芸人がテレビでネタを披露すると、観覧席から悲鳴が上がることがある。そのことへの賛否はここでは書かないが、出演する芸人にとって不本意な反応であることは確かだろう。もちろん、笑いと恐怖は紙一重である。『水曜日のダウンタウン』のクロちゃん企画でも、スタジオの観覧席からは悲鳴が上がる。集団内で共有される暗黙の了解から半歩はみ出すと笑いに、一歩踏み出すと恐怖になるのかもしれないが、そこは生涯の研究テーマとしたい。
かもめんたるはすごい。ここまでの狂気を表現しながらも、「笑い」の範疇からギリギリはみ出さない客観性がすごい。深淵を覗いたものは深淵に覗かれるはずだが、それでもなお正気を保てる彼らは、ヤバいくらいにまともである。(森信太郎)
テレビという虚構への招待
皆さんに質問。テレビの取材って受けたことありますか?街頭インタビューなどは概ね、突然されるものですが、お店や職場などを覗かせてもらう番組の場合、事前に打合せをし、ロケ台本を書き、それに沿って撮影するのが通常パターン。実際には台本通りに進まず、現場でフレキシブルに対応していくことも多いのですが、ある程度の段取りや誇張した演出は不可欠です。だって、そうしないと、事がスムーズに運ばないし、第一、面白くならないから。
「朝の情報番組」と題された、かもめんたるのコントは、岩崎う大さん演じる農夫と槙尾ユウスケさん演じるディレクターの会話のみで構成された、極めてシンプルな作品です。向こうからタレントがやって来るので、畑でやりとりしてください、と段取りを説明するディレクター。それを聞く農夫は斜に構え、いちいち、いちゃもんを付けていきます。中でも引っ掛かったのが、この言葉。「大根、抜いてみる?」「普通、言わないでしょ」と。確かに。突然、畑にやって来た見知らぬ人に「大根、抜いてみる?」とは言わないよね。これは象徴的なテレビの嘘。このやりとりが適切かどうかは置いといて、この手のお約束がないとテレビは成立しないのです。そんなのあり得ない、と目くじらを立ててはいけません。取材される方も、観る方も。ところが、この農夫が反発する理由は単にそれだけではないのです。「抜いてみる?」という台詞と顔のアップだけが抜かれ、風俗の宣伝に使われたらどうするんだと。う大さんならではの狂気的飛躍。困り果てるディレクター。そこに連絡。前の撮影で尺が伸びたから、撮れ高OK。畑のくだりはカットすると。心なしかホッとした表情で、でも一応、申し訳なさそうな態度を演出しながら、農夫に断りを入れるディレクター。すると農夫は、理解を示しながらも複雑な表情を浮かべます。本当はテレビに出たかったのに、という本心を必死に隠しながら。
ここで頭をもたげるのは、何故、このコントを作ったのか?テレビ批判は当然、根底にあるでしょう。レポーターとしての実体験からヒントを得たのかもしれません。ディレクターが強いる段取りに嫌気がさした経験も少なからずあるはず。それが創作の種になったなら、良しとすべきかもしれません。でも、それでテレビ嫌いになったとしたら言いたいことが。そんなに真面目にならないで、と。テレビは段取りありきのショーなのです。優れた演者はそれを踏まえたうえで、わざと道を踏み外したりしながら、独自の世界を構築していきます。コント師の頂点に登り詰めた二人なら、道化を演じるのは難しくないはず。テレビをコントの延長と捉えてほしい。かもめんたるをもっとテレビで観たいから。生ぬるいテレビに狂気を持ち込んでほしいから。(市川幸宏)
空気階段。驚愕のクオリティ!
《1》【空気階段】<コント師>二人組/★★★★★/「なんだ!何見てんだ!?自分の中の17条を制定しろ!」。電車の中で乗客と絡む嫌なおじさんが登場…に見えたが、「何見てんだクソババア!ほら!さっさと座れ!」と老人に席を譲り、「おい!そこの豚サラリーマン、中野ついたぞ!お前いつもここで起きてるだろ!」とモーニングコールをし、英語で外国人に案内する妙な優しさを発揮する。「おい!そこの女子高生!電車の中で勉強するな!」と理不尽にキレたあと、「おい!そこの男子高校生!お前、毎朝あの高校生のこと見てるだろ、話しかけようとしてビビってダメだっただろ。今俺に理不尽に怒鳴られて気落ちしてる。それとなく”大丈夫ですか?”って話しかけろ!」とキューピットまで成功させる『電車のおじさん』。「今、丁度人手たんなくて困ってるんだ。仕事紹介してやるよ。」。街中で、会社クビになって落ち込んでる男に、変なおじさんが話しかける。「携帯みてみろ」というおじさんの言う通りにすると、おじさんが離れるたびアンテナが減り、近づくたび増える。「おっちゃんね。通信業界で働いてんだ。腹によ、電波出る機械”ぶち込まれてる”んだ。」「最近ね、スマホってやつが普及したせいで電波が全然たんねーの。そこで人間を電波にしちまえばはえーじゃんって考えたわけ。孫正義さん。」「電波の表示っていうのはな、今このエリアん中におっちゃんみてえな人間が何人いるかを表してんだ。」「おっちゃんみてえなやついるだろ?ぶつぶつ独り言言ってたり、電車ん中でずーっと寝てたり、コンビニの飯食うスペースにただいるだけだったり、”どうやって生きてんだろこの人?”って人。あいつら、”ぶち込まれてる”。」「あんな素晴らしいアイデアを思い浮かぶのは孫氏だけだぞ。俺がこうして生きてられるのも全部ソンシのおかげなんだ。ソンシがいなかったら…」。と驚愕の仕事内容を紹介する『電波のおっさん』他計6作品。普段生活していて不快に感じることの多いおじさんネタを、ここまで愉快に反転させたアイデアが素晴らしい。おじさんの特徴的な喋り方や身のこなしのリアルさのおかげで、突飛な設定も「あるかも」と思わせる説得力があるし、全ネタの構成、キャラ、セリフの沸点が異常に高い驚愕のクオリティ。今、誰もが知る人気コンビでないのが不思議でならない。
《2》【ピンク・リバティ】<演劇人>出演者:5人/★★★☆☆/披露宴の大学時代の友人女性三人の、マウンティング合戦を中心としたやりとりを描く『私たちの友情』一作品。上昇志向の女性が醸し出す嫌な空気感を丁寧に描いていて、そういう女性の空気を描きたいと思うくらい、作演の方は、女性に愛されて(または苦労して)きたんだな、という印象。華のある女優さんを扱うのが上手なので、これからも定期的にテアトロコントに彩りを加えてほしい。
《3》【ジグザグジギー】<コント師>:6人/★★★★☆/アル中の手の震えでかかってきた誘拐電話を切ってしまう『誘拐』等計4作品。キャッチーさ、沸点の高さ、コント師ならでは。アイデアそのものは少し弱い気もしたが、それを感じさせない安定感。
《4》【劇団ハッピーヒューマン】<演劇人?枠>多数/★☆☆☆☆/単独公演でも上演ししていた巨乳三部作の再演。バカバカしさを楽しむ作品で、特別な目新しさも、発想のジャンプもなく、くだらなさが好きか嫌いかというだけの作品。劇団地蔵中毒から皮肉っぽい台詞回しを抜けば、やってることはそう変わらないような気もしてしまう。大人数でバカバカしいことを勢いよくやれば、雑にやってもごまかせるといった舞台は、個人的には苦手だが、客席は大いに笑っていたので、自分がズレていたのだと思う。
【総評】空気階段の衝撃で字数をかなりとってしまったので、ジグザグジギーの安定した素晴らしさは、他のモニターレポートにお任せすることにする。(モリタユウイチ)
テアトロコントvol.31(10/27)の演目
【空気階段】 空気階段の6つの演目(『電車のおじさん』『聞き込み』『政治家』『電波のおっさん』『隣人』『クローゼット』)は、それぞれに別方向の面白さがあった。「おじさん」という類似のキャラクターが複数の演目に登場するが、構成はまったくかぶっていない。いずれも甲乙つけがたかったが、生でコントをみる醍醐味が味わえたと思ったのは『クローゼット』で、特にそのラストがよかった。何が起こったのかと一瞬考えてしまったが、こういう漫画的(=非現実的)な飛躍を、大げさな仕掛けなしに芝居だけでさらっとやっているところを観られるのは本当に楽しい。セリフでは、「普通に理不尽に怒ることもあるんだ」、「思ったより常識的な人間でした」(『電車のおじさん』)、「葛藤が生じております。少々お待ちください」(『聞き込み』)などの実況系のセリフが、説明的でなく、その都度実感がこもっていて、荒唐無稽な設定の中にあってすんなりと共感できるところが印象に残った。
【ピンク・リバティ】 『私たちの友情』は、友人の披露宴に出席した女性たち3人の会話を描いた寸劇。無邪気を装いながらも、言葉の端々に夫の高収入を匂わせて他の2人からマウントをとろうとするミキ、実はミキのことが嫌いで、彼女の夫と浮気をしたことがあると影で告白するマイ、社交的なミキとマイに挟まれて三枚目を演じながらも、時折別の表情をのぞかせるユウコ。この3人が座るテーブルに1人の男性が通りかかったことをきっかけに、辛うじて保たれていた「友情」にひびが入る。“結婚式によくある風景”といった趣で、展開にはあまり意外性を感じなかったが、それぞれの役者さんが女性たちを丁寧に演じていて、存在に説得力を持たせていたところに好感をもった。
【ジグザグジギー】 『誘拐』、『チンピラ』、『オフィス』の3つの演目にはいずれも、何回同じことを言っても話が通じない相手が登場する。その、意思の疎通を図らせてもらえない歯がゆさというか、会話の終わりがまったく見通せない不気味さが、妙に心に残った。もしかすると、作者の意図はそこにはなくて、表情や動きのおかしさの方に重点が置かれていたのかもしれないが。オチに向かって収束していくというより、不毛なやりとりで一か所にとどまり続けるところに味があり、それがこれまでにみたどの演目とも違っていた。
【劇団ハッピー・ヒューマン】 『巨乳笛』『巨乳の罠』『新作巨乳コント』の3つの演目から成る大作。がたいのよい「巨乳」たちや、「巨乳」に恨みがあるらしい黒マントの男、手下を使って「童貞」から想像力を奪う悪い作家、「貧乳」村の長老、「巨乳」というより「長乳」ともいうべき長い乳を持つ女など、ビジュアルのインパクトが強いキャラクターたちが次々に登場する。『巨乳笛』で、主人公の男が大勢の巨乳たちと真顔で大縄跳びをする絵がひときわシュールだった。見た目に気を取られて、ストーリーの細部が十分に追えなかったところが少し残念だった。セリフでは、「童貞」の最年長者が喜々として叫ぶ「大金持ちの女は、痴女だよ!」が面白かった。(注:セリフはすべてうろ覚えです)(大熊)
見えない空気の階段に勇気を抱いて一歩踏み出せ!!
空気階段、m&m’sチョコレートのキャラクターを想起させるお2人が登場。m&m’sチョコレートのアイデアがスペインから齎された事をみなさんはご存知だろうか。当時、戦争下のスペインを訪れたフォレスト・マースは、そこで兵士たちが砂糖でしっかりとコーティングされた粒状のチョコレートを食べている場合に遭遇した。こうすることで、チョコレートが溶けるのを防いでいたのだ。マースはこのアイデアに触発され、早速レシピの開発に取り掛かった。1940年、アメリカに帰国後、友人のブルース・ムリーとチョコレート生産販売工場を設立。両者の頭文字を取ってm&m’sと名付けました。この文脈で言うと水川&もぐら(敬称&細かいこと略、この場合はk&k’s)の2人はコント界のm&m’sということになります。そんなお2人のコント『電車のおじさん』誰しも目撃したことがあるであろう、キャップを被って急に大きい声出したりする見るからにヤバイおじさん。でもこのおじさんを一定の時間、俯瞰で見続けると実はおじさん自身は別として車内のセキュリティ、カップル成立、ホスピタリティに奔走するコーディネーターだったのだ!『政治家』汚職にまみれた政治家、その証拠を掴もうとする秘書。しかしテープレコーダーに録音された肝心な部分はトシちゃん。ドンドン侵食していくトシちゃん。只のトシちゃん。あげくヒロミGO。『電波のおっさん』先程の電車のおじさんよりゴミ感が強いおっさん。いきなり勧誘してくるが、その内容は体に何かを埋め込みアンテナになるというモルダー&スカリーの得意分野、しかもその仕事の仕切りは孫社長率いるソフトバンクだと、まことしやかに話すおっさん。私達が時折、街で目にするウロウロしてるおっさん達は体にアンテナを埋め込まれた電波のおっさんに違いない。そうに違いない。『クローゼット』の奥には瀬川瑛子の声を基本とした様なモノが棲みつくエレクトロ・コネクターに接続されたパラレルワールドが存在した!このような日常が少しだけガチャッとズレた風景を空気階段という装置で見る楽しみがありました。
ピンク・リバティは劇場で後ろの席の人が自分の席をコンコン蹴ってくる様なおはなしでした。
ジグザグジギー『オフィス』1本道のミステリーは面白かったです。しかし『チンピラ』に出てきた変態と言われていた、あのキャラクターって全然変態じゃないですよね。それがずーっと引っかかったまま観てしまいました。スイマセン。
劇団ハッピーヒューマンは勝手に群像劇の様な作品を想像していたのですが案外と区画整理されていた印象。稽古が大変になってしまいますが、もっとゴチャゴチャな人間関係も観て観たかったです。道端にある巨乳を偶然見つけたゴリゴリの童貞イガラシ。その谷間に飛び込んだイガラシの見たモノはベストセラー作家が牛耳る地下世界であった。巨乳の誘惑で地下世界に堕ちてきた童貞達は、その作家に〝童貞の想像力″を吸われ、その力でヒット作を連発していたのであった。その一方で禁書の様に積まれていく童貞。この状況を救世主イガラシはどうやって打開していくのか。現れるラスボス!がここで!そこまでも何となくフワフワしていたイガラシが噛み噛み。何となく勝利!互助会的に。よかったです。
そんな時ニュージャージーでチョコレートのイエローが言ったんだ。
「誰でも、ちょっとは変わり者さ!」
(イトモロ)
埋もれていた奇才たちが渋谷に集合した記念すべき夜。
・ピンク・リバティ
知らなかったユニットでしたがまず女性演者の顔のバラエティさにまず心を奪われました。いかにも劇団という感じの声の出し方も、すっと入ってくる。ストーリーにどんどん引き込まれていきました。特にうらじぬのさんの顔の表情をずっと見ていられるぐらいに面白かったです。ビミョウな表情が特に。
・日本エレキテル連合
過去に何度か彼女たちの公演は見に行った事がありますが(ユニットコントの企画公演で)時を重ねるごとにどんどん変化、進化してきていて観ててとても心地よい気持ち悪さが最高でした。一度テレビで売れてしまったけれど、このようにテレビではおよそ出来なそうなコントこそが日本エレキテル連合の奇才さを発揮できるのではないでしょうか。
・劇団ハッピーヒューマン
事前勉強せずに観ました。開いてみたらブロダクション人力舎の精鋭の方々のユニットでした。「巨乳」シリーズ立て続け、テーマがテーマなだけにはじめは少し観ていても照れくささもありましたが最後には爆笑につぐ爆笑。よくこんな(良い意味で)くだらなくて馬鹿馬鹿しいの考えたナァと感心するばかりでした。元・巨匠の岡野さん作という事を後からしって流石だなと思いました。
・かもめんたる
お気に入りの芸人さんなので期待して観ました。期待通り、いやそれ以上でとても楽しめました。
岩崎う大さんは演者としても演出家としてもどちらも才能が開きっぱなしなのでこれからももっといろんな人たちに観て、知ってもらえると嬉しいなと思いました。
(ファンキーOL奈々)