渋谷コントセンター

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2021年8月27日(金)~8月28日(土)

テアトロコント vol.52 渋谷コントセンター月例公演(2021.8)

主催公演

公演詳細

軽やかに飛び越えるダウ90000
今回はこのご時世により京都在住の努力クラブが出演不可となり、その結果ダウ90000とかが屋のツーマンライブというレアな体制になった『テアトロコント vol.52』だが、個人的にはとても面白い対照的な2組の共演となった。
先手はダウ90000。1本目のコント「AED」は救命士がAEDを実習する設定で、「あなたは意識があるか確認してください」や「あなたはAEDの電源を入れてください」など、ある意味で大喜利のお題を振るような構図となる。このシステムが、人数の多いダウ90000というグループはどういう人たちなのかを自己紹介するうえでとても見やすかったように思う。「あなたは〇〇してください」というネタフリに対してボケていき、その次は「あなたは今日の出来事を漫画にしてインスタにアップしてください」のようにネタフリがボケになるシステムを連発していく。人数が多い分、ボケ数も多い。しかもダウ90000はそのボケを出すテンポが異様に良い。そしてそのボケ数やテンポ感をそのままに良い話として笑いをかっさらっていたのが「化粧初日」というコント。基本的にストーリーでコントを進める場合、特定の誰か(ツッコミのパターンが多いかな)が不幸な目に合いながら笑いになっていくことが雛型の一つな気がするが、このコント(そしてここがダウ90000をこれまで観てきて真骨頂だと思う部分)は出演者全員が幸せになるような出来事が起こり、観客をハートフルな気持ちにさせる。だがそこで行われているお話のテンポがあまりにも良すぎて、そのハートフルなお話がシステマチックなベルトコンベアー方式のものに見させてしまう。その絶妙な加減具合によって”良い話”と”馬鹿馬鹿しい”を同時に存在させ、観客の爆笑につなげていく。
一方のかが屋も、2人の友達としての関係性や良い話をどう笑いに昇華して見せていくかを多くコントにしてきたコンビである。でもやはり、お互いを傷付け合わせるとか、一方が不幸になるとか、従来のシステムや展開に即したコントも多い。今さら「人を傷付けない笑いが~」みたいな話は全くしたくないが、ダウ90000の人数の多さ、ボケ数、テンポ感、不幸になる役どころが一人もいない、というものが積み重ねられた結果、これまでのお笑いでは見たことがない軽やかな笑いを見ることができて、とても感動してしまった。
そしてそのコントの軽やかさの延長なのかどうかは分からないが、ダウ90000主宰の蓮見氏が「テアトロコントの『テアトロ』の部分が演劇を意味していることをさっき知りました」(テアトロコントによせて)と言っていることや、『キングオブコント2021』の予選やお笑いイベント会社・K-PROのライブにも出演するなど、もはやそこに演劇やお笑いの壁みたいなものは彼らには存在せず、軽やかに飛び越え続けているように思う。これこそ『テアトロコント』がもともと目指していた「新しいジャンルの創出」の一つの形であろうと思った。(倉岡慎吾)

揺れて切ない大人への階段
この時間がずっと続いてほしい。そう思わせてくれる時間のことを幸せという」。ある人が口にした幸せの定義です。これには異論もありますが、それが幸せな時間であることは間違いないでしょう。前代未聞10人組のコント集団・ダウ90000のコント「ピーク」を観れば、一目瞭然です。
知り合ったばかりの男女。終電を逃し、所在なさげにベンチに座り、たわいもない会話で時を過ごす。男性は女性の好意を感じ、ソワソワが止まらない。アルコールも進み、いやが上にも気持ちは上がる。女性が追加のアルコールを買いに行っている間、知人が通りかかるが、そこにはいつもと違う、ちょっと強気な自分がいる。何故なら、今、自分は人生のピークにいるから。モテ経験の少ない人なら、この気持ち、とてもよく分かるのではないでしょうか。でも、得てして、その後の展開はあまり期待できません。何故なら、その時点が人生のピークだから。淡い期待はあっけなく打ち砕かれ、虚しさが一気に襲い掛かる。それまでの高揚感とやるせなさが混在し、気持ちの整理がつかない、もどかしさ。言葉では言い表せないモヤモヤを必要最低限の台詞とナチュラルな演技で表現し、観客の共感を誘うのだから、とても結成2年目とは思えない恐ろしさです。
出会った男女が互いに好意を持ったなら、デートをするのは自然の流れ。夜景が綺麗なレストランは、その後の運命を左右する勝負スポットとも言えるでしょう。そこで求められるのは、二人の気持ちを共有するリアクション。程度はあるにせよ、驚かないのはやはり問題かもしれません。コント「驚かない」は夜景に、スパークリングワインに、料理の一皿一皿に、驚かない男性。それを見て、女性がブチ切れます。でも、あなたの周りにもいませんか?リアクションの薄い人。本人はそれなりに驚いているのに、それが表面に表れない。リアクションが大きい人はイライラするかもしれませんが、決して悪気はないのです。だから、そこは大目に見てあげる寛容さも同時に必要と言えるでしょう。このコントでは、どれぐらい驚けばいいのかと問われた女性が10段階でのリアクションの違いを見せつけます。しかし、これもどうなんでしょう?それぞれのシーンにおいて、どの程度のリアクションが相応しいかを瞬時に判断し、それを当てはめるという機械的行動は。それを見て、今度は男性がブチ切れます。でも、やはり、それも大目に見てあげましょう。こんなことで二人の関係にヒビが入ったら、それはあまりに不幸ですから。
この日、ダウ90000は「化粧初日」「結婚の挨拶」というコントも披露しています。4つの作品を年齢の若い順に並べ替えると、青春時代から続く恋愛絵巻のようで、何ともこそばゆい気がしてきますが、それこそが彼らの魅力なのです。(市川幸宏)

ダウ90000とかが屋のストイックコントライブ
本公演は京都で活動する劇団努力クラブが出演する予定であったが、新型コロナの影響で出演が見送られた。そのため、出演者がいつもよりも少ない2組となった。新型コロナ感染拡大前は4組の芸人・劇団が出演していたテアトロコント。2組しか出ない今回はボリュームに欠けるのではと開演前は不安に思われたが、持ち時間が長くなったことで、むしろ1組の底力を感じることのできる、ボリュームたくさんな公演となった。
 1組目のダウ90000は5本のコントを披露。『AED』のように劇団全員の10人(公演当時)の噛み合わない関係が楽しめるコントに、『結婚の挨拶』『驚かない』のように2、3人の会話劇で、一人一人の演技力の高さを感じさせるコントと、5本全てで様々な楽しみ方ができた。また、『化粧初日』『ピーク』のような若者の恋愛を中心にしたコントは、登場人物が真面目に喜び、悩んでおり、分かりやすく観客の笑いを誘うような台詞を吐くことはないのだけれど、つい登場人物すべてを愛おしく思えてしまい、笑ってしまう。きっとこの人間の描き方が今のダウ90000のコントの魅力なのだろう。気になるのは『結婚の挨拶』『化粧初日』『ピーク』といったコントで見られた固有名詞の使い方である。「ヴィレヴァン」「フジファブリック」「花束みたいな恋をした」といった、20代の人間に馴染みのあるものや、ちょうど現在新鮮味のある作品の名前が効果的に使われる。固有名詞が使われると、その名前によってはすぐに鮮度が落ちてしまったり、見る人によってはピンとこないといったこともあると思う。ただ、ダウ90000の魅力の一つには新作が作られるスピード、コントの多さもあると思う。この先作・演出の蓮見翔や役者の触れるものが変わっていったり、世間の流行が変わっていくにつれて、コントの中で使われるワード、固有名詞は更新されていき、新しいコントが作られていくと思う。だからこそ、『結婚の挨拶』『化粧初日』『ピーク』の三つは面白く、ダウ90000の今後が楽しみになる作品だった。
 2組目のかが屋は7本のショートコントに5本のコントと、単独公演並みの演目を披露した。計12本のコントは全て少ない衣装と小道具で演じられており、その高い実力を再確認させられた。エンディングのトークで加賀が冗談交じりに自分達のことを「日常を切り取るコント師」と称していたが、それが全く嫌味ったらしく聞こえないのは、卓越した「日常を切り取る」観察眼と、「日常」を再現する高い演技力を、観客全員が認識しているからだ。ダウ90000と打って変わって2人という少人数で披露されるコントで、実に様々なキャラクターが現れる。初めて彼女ができて舞い上がる人、社内恋愛を隠している上司と部下、酔っ払いながら自分の職場に間違って入ってきてしまうコンビニの店長等々。馬鹿馬鹿しく、憎たらしく、愛らしい人間を「切り取る」かが屋のコントは非常に魅力的だった。
 今回のテアトロコントで驚いたのは、2組とも演目の合間に映像作品等を挟まなかったことである。ダウ90000もかが屋もストイックに各々のコントをぶつける。観客もそれについていき爆笑する。お笑いの種類が細分化されていき、様々な形で面白いことが追求されていく今日において、ただひたすら面白いコントをたくさん披露するという本公演はかえって新鮮で、異様なものではないだろうか。(永田)

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