渋谷コントセンター

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2021年3月26日(金)~3月27日(土)

テアトロコント vol.50 渋谷コントセンター月例公演(2021.3)

主催公演

公演詳細

笑いを加速させる魅惑のステップ
人はどんな時にステップを踏むのでしょうか?えっ、ステップを踏んだことがない?そんなことはないでしょう。よ~く考えてみてください。
とある教室。先生役の依藤たかゆきさんがまだクラスに馴染んでいない転校生役の古川彰悟さんを不憫に思い、他の生徒たちを諭すように語りかける。転校してまだ、まもないというのに。「何故、言う?」驚きと動揺でパニックになった古川さんは、挙動不審にその場で小刻みに足踏みを始める。まるで、ボックスステップでも踏んでいるかのように…。追い詰められた古川さんが心の叫びを表現するかのように不自然なステップを踏み始めると、客席の笑いは加速します。これがサスペンダーズのコントの勝利の方程式。
ところ変わって東急ハンズのホビーフロア。何気なく手に取った知恵の輪をいとも簡単に解いてしまう古川さん。それも一つではなく、次々と。「この喜びを誰かに伝えたい」感激に浸っていると依藤さんが現れる。「知ってる人だ!」よくよく思い出したら、その人は前のバイトで夜勤と朝勤の引き継ぎで会った人。ろくすっぽ言葉も交わしていないので、流石にちょっと伝えにくい。そうこうしているうちに、その人は去ってしまい、依藤さんが衣装を変えて現れる。「知ってる人だ!」だけど、その人は近所のパチンコ屋でたまに見かける人。関係性が遠くなった。「さっきの人に伝えておけば良かった」古川さんが後悔していると、再び依藤さんが衣装を変えて登場。「お兄ちゃんの友達だ、イケる!」と思って近づくと「おまえの兄貴から聞いたけど、なんで仕事探してないの?」と叱責されるハメに。予想外の展開に古川さんは慌てふためき、例のステップを踏み始めます。
さらに、ところ変わって動物園。パンダが空を仰ぎ、寝転がっていると、子供役の依藤さんが「パンダ、元気ない!」と大声を出す。飼育員役の古川さんは自分のせいにされるとまずいと思い、何とか子供を静めようと取り繕いますが、ヤバイヤバイと気持ちが高ぶり、そしてまた例によって、あのステップを踏み始めてしまうのです。
予期せぬ事態にパニクると、何故かステップを踏んでしまう奇特な人。もしかしたら、古川さん演じるキャラクターは同一人物なのかもしれません。だとすると、今回披露した3本のコントは転校生のその後の人生を描いた長編ドラマだとも考えられます。大人になっても本質的には何も変わらないという真理をついているようで興味深い作品です。
そうそう、最初の問いに戻りましょう。人はどんな時にステップを踏むのか?パニクった時ではありません。ステップを踏むのは、そう、ジャンプするため。古川さんのあのステップはサスペンダーズを飛躍させるためにあるのです。(市川幸宏)

爆速センチメンタルのダウ90000
今回のテアトロコントで印象に残ったのはダウ90000。『顔合わせ』は映画の顔合わせでの出来事、『東京』は田舎の兄妹が初めて出た都会に翻弄される様、『元カノ』は別れさせ屋ならぬ”より戻し屋”的な職業の人が別れたカップルのよりを戻し、『花束とハイヒール』は『元カノ』のカップルが結婚を決意し、ボンクラ男と東京タワーのエレベーターガールが付き合い始めるニュアンスでハッピーエンドで終わっていく。それぞれぱっと一言でコント概要を描いてみたが、その中で起こっている展開やそれぞれの人物の関係性は割と複雑でここでは到底書き切れない。でもそういった複雑な展開や関係性を描くには、それに見合った速度があると思う。特に『顔合わせ』以外の3本はかなりセンチメンタルな内容になっているので、それに見合ったスピード感、もっというと丁寧な見せ方でやれば普通にお話として成立したと思う。実際、観客の反応的にも「良いものを観たな~」という雰囲気は伝わった。でも個人的にはどの作品もスピードが速すぎると思った。もう爆速。3倍速ぐらいのスピードで4本の作品を駆け抜けた印象がある。作・演出である蓮見翔が主にツッコミ役となって、話に設けられている笑い所はしっかりウケていたが、個人的にはその笑い所よりもセンチなお話が爆速で進行していく様がずっと可笑しかった。「速いは面白い」ということは、「焼肉は美味い」とか、「スポーツカーはかっこいい」とか、そういう人間が根源的に持っている感覚を思い出させてくれた。「速いは面白い」し、それが「センチな話」という全然釣り合ってないものが展開されていくギャップがとても可笑しかった。お話よりも、その速さに感動して呆気にとられた自分がいた。その昔『東京ポッド許可局』で「ドラリオン論」というのが語られていた。「ドラリオンで行われているサーカスが凄すぎて笑っちゃう」というような主旨だったが、その感覚に近い。爆速の展開で、役者の台詞被りや台詞飛ばしはほとんどなく良い話が進んでいくことが面白かった。そして爆速で展開される様の意地悪さが個人的には心地良かったと思う。また、めちゃくちゃ速かったがうるさくなかったのも良かった。どうしても速さが強調されると「やかましさ」も同時に増してくる傾向にあると思うのだが、そこは役者全員がそれほど声を張らずに、ただ「速さ」だけが増している状態が続いて終わっていくのが良かった。速くて上品な作品群だった。(倉岡慎吾)

人間の弱さに愛を注ぐキャラクターコント、ザ・マミィ
【ザ・マミィ】
【年収1000万】いかついネックレスに柄シャツを合わせた派手な見た目の男性(酒井)が、新卒入社したばかりの地元の同級生(林田)を誘って食事に行く。あまりに羽振りが良い酒井に林田が、職業を聞くと、二人が置かれている状況、力関係が変わってしまうという話である。地元の同級生に金回りの良さを自慢したいがために奢ろうとする見栄っ張りと、そんなに相手のことをよく思っていないにもかかわらず、奢ってもらえるなら、是非食事を共にしようとする、抜け目のない人という組み合わせは、日常に良くある。その上、小柄でぽっちゃりとして憎めない酒井と、長身細身で賢そうだがどことなく人を信用していないように見える林田の醸し出す雰囲気が妙にリアリティがあった。

【取り立て】近日中に借金を返済し終える見込みが立つほど、順調に返済続けている男(林田)の家に、やくざ(酒井)が、毎日やってくる。実はやくざは、おねえ系であり、借金を抱えるその男に惚れていて、借金取りにかこつけて、男に会いたいだけという話である。まず、酒井が上半身裸で化粧をしている時点で笑いは倍増している。化粧をしていることは納得できるが、おねえ系であるなら、服は普通着るのではないかと率直に思う。酒井が上半身裸である必然性は全くない。しかし、酒井の上裸はお腹がポッコリ出ていて、やや色黒で、いやらしさはなく、愛嬌がある。リアリティを捨てて、笑いを取る試みは成功している。林田が、個性的な酒井に一切たじろがず、常に冷静であるところも素晴らしい。酒井の否定を一切せず、唯一否定するところは、法に触れている「極道である点」のみである。

【ベストフレンド】中年男性2人(酒井、林田)は、話の中身は中学生のようだが、とても仲良しである。しかし、2人がルームシェアをしていることを、林田がお茶をした学生時代の同級生から全否定されるという話である。林田の演じることができる役の幅の広さに驚かされた。林田は、個性が強めのキャラクターを担当する酒井を引き立たせるため、一般社会によくいる普通の成人男性を演じることもできるが、本コントのように、酒井に合わせて、一般社会になじめない変人側の演技も巧みである。どんな役を演じても、非常に自然である。

【あんた頭おかしいよ】題名の通り、「頭がおかしい」コントである。本コントのような状況はさすがにないにしても、カップルは家の外にいても、二人の世界に浸り、周りが見えなくなることは大いにある。駅の構内で別れを惜しむカップルがいちゃついている光景は日常茶飯事である。多かれ少なかれ、恋人と二人だけで成立する世界を持っていることは一般的であり、恋人とメールや電話をしているところを、他人に見られても少しも恥ずかしくないという人間の方が稀である。その意味では十分共感できるネタであるし、二人の動きが面白く、爆発力、破壊力が抜群であった。(あらっぺ)

ダウ90000のような才能に求めること
今回のテアトロコントで印象に残ったのはダウ90000である。初出演の緊張も感じさせないパフォーマンスで笑いをかっさらっていた。特に3、4本目に披露された「元カノ」「花束とハイヒール」は傑作である。演者全員の演技がうまく、元カノから現在付き合っている彼氏と結婚することを告げられ崩れ落ちる蓮見も、唐突に駅のホームに現れる東京タワーのエレベーターガールを演じた吉原も、その彼女に恋して耳が聞こえなくなる園田も、全員に笑ってしまった。テアトロコントで初めてダウ90000を見た人も、以前からその活動を追っていた人も、その才能を確認しただろう。私もその一人であり、今後も活動を追っていきたいと思っている。しかし、ダウ90000の才能を確信しているからこそ、不安になることがある。
ダウ90000の笑いは、人間関係の妙から生まれてくるものだと思う。どこかずれている会話劇の「顔合わせ」であったり、東京に出てきた田舎の兄妹の不安を描いた「東京」であったり、今回の4本の演目ではこういった人間のおかしさを感じさせられた。作・演出の蓮見は人間の描き方において、類稀な才能を持つのだと思われる。私はそこに不安を覚える。人間を、もっと広い関係性の中で描いてほしいと思うのである。
ダウ90000の描く人間は、恋愛関係の中に収まってしまっている。今回のテアトロコントで披露された4本のうち、「顔合わせ」「元カノ」「花束とハイヒール」の3本が男女の恋愛が関わるものであった。さらに、1月に池袋新生館シアターで行われた第1回本公演「フローリングならでは」も、同居する男女や元/今カノと男との関係が描かれていた。それが失敗だとは思わない。短篇コントならばそれでもたくさん笑いを生めるだろう。しかし、もし今後長篇や、今回の「元カノ」「花束とハイヒール」のような同じ世界観を持つコント群を作っていくとしたら、それだけでは物足りない。人間関係が恋愛の中に収まってしまうと、テーマ性が希薄になり、強い構造をもつ物語を生み出せなくなるだろう。
また、ダウ90000のような巧みな笑いによって恋愛というものが表現され続けていくことは、そこに内在している複雑な問題を無化してしまうことに繋がるのではとも思われる。何かを笑うとき、面白がるとき、その主体は対象をいくらか離れたところから、俯瞰するようにして見つめているだろう。周縁からの視点によって生み出す笑いは、無意識的にも、ギリギリをつくような批評性を帯びているだろう。しかし、離れたところから物事を笑いのネタにすることは、反対にそこに内在する問題を笑いによって隠してしまうこともあると思われる。私もコントで笑うことによって、何かに気づかされることもあるし、何かをそれで許してしまっていると思う。だからこそ、ダウ90000のような才能を持つ人たちが、恋愛をネタにし続けることは、隠してしまう、無視してしまうことに繋がってしまうのではないかと不安になるのである。
同性であろうと異性であろうと人間関係は恋愛関係に終始するものではない。それを分かっていないとは思わないが、どこか安易に描かれてしまっていると思わないではいられないのだ。私としては「東京」のような地域差や血縁関係の中の人間の不安や、苛立ち、恥ずかしさをこれからもっとコントや演劇にしてほしいと思う。
ダウ90000は観客の爆笑をかっさらう、類稀な才能をもつ劇団だと思う。しかし、だからこそ、様々なテーマに挑戦し、観客の内面化されてしまった構造や思考回路を突き動かすコントや演劇をつくってほしいと思う。大きな笑いを生み出すことのできる芸人、劇団は私のような無能な観客にとっていつも驚きを与えてくれる存在である。だから、典型的なシチュエーションやキャラクター造形に頼らない、むしろ価値観を揺さぶる笑いをつくってほしい。これからもダウ90000を追い続ける一観客からの願いです。(永田)

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