渋谷コントセンター

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2021年10月29日(金)~10月30日(土)

テアトロコント vol.53 渋谷コントセンター月例公演(2021.10)

主催公演

公演詳細

ためらわずにしたい枕投げ
世の中に女性だけが働く職場というのは一体、どれぐらいあるのでしょうか?社員全員女性のみという会社を個人的にも知っているので、少なからずあるのでしょうが、その職場の雰囲気と実態は皆目見当がつきません。
この日、劇団アンパサンドが演じた作品の舞台は、女性のみが働くオフィス。キャピキャピ、ルンルンといった昭和後期の浮かれ気分はまるでなく、オフィスを覆うのは、イライラが充満した、どんよりとした空気。まさに令和の今を象徴しています。その要因は、取るに足らない押し付けられた雑務、上司に物言いができない立場の弱さ。仕事に対するやりがいなど微塵も感じることができず、生活の糧となる、わずかな日銭を得るためにやむを得ずデスクワークに勤しむ彼女たちの姿は、現代日本のありふれた光景なのかもしれません。
働けば、死なない程度に生きていくことはできる。でも、先の見通しは全く立たない。未来への夢も希望も持つことができない。何故なら、ただ虚しくなるだけだから。そんな絶望がデフォルトとなった世の中で、働いて眠るだけの毎日を繰り返す彼女たち。どうすれば、この負の連鎖から抜け出すことができるのか?それにはまず、自分で動くしかない。自らの壁を打ち破り、新しい第一歩を踏み出すことでしか、違う未来は拓けない。そんなメッセージが込められているようにも思えました。その象徴として登場するのが、枕投げです。
枕投げをしたいのにできない。自らにストッパーをかけ、願望を封印し、NOと否定を繰り返す、遠慮がちで小心者の事務職員。その傍らには、常に不平不満を口にし、怒りを露わにする対照的な同僚がいます。彼女は抑えきれない苛立ちを紙屑に託し、ゴミ箱に投げつけます。次々と連続して、猛スピードで。手を離すと紙屑がゴミ箱に吸い込まれていくという、この仕掛け。ゴムパッチンで有名なコント・ゆーとぴあの如く、強力なゴムで結ばれているのかと思いきや、なんと、メジャーが仕込んであったとか。時代と共に小道具もアップデートされていることに驚かされます。そして、このメジャーが枕にも利用され、絶大な破壊力を持つ殺人枕投げへと転化していきます。留め金が外れたかのように、誰も彼もが解放され、狂乱の世界へ。そして、衝撃のオチへとなだれ込みます。『サイは投げられた』って。パンフレットのタイトルはあえて見ないようにしているので、あまりのナンセンスぶりに腰が砕けました。勿論、いい意味で。タイトルを知らずに観た方がより楽しめるという好例です。(市川幸宏)

混沌ビュッフェ!
テアトロコントvol.53には、3組で口裏合わせをしたのかと思うほどに完璧な、三者三様の『混沌』が用意されていた。本公演唯一のお笑いコンビであるハチカイは、2本目の「結婚の挨拶」というコントが異様だった。結婚の挨拶を控えるにしぶちがマナー講師扮するこんぽんに、いかにもコメディ土台の、嘘みたいな厳しさでマナーを叩き込んでいく。初期設定としては割と見たことあるなにかで、この時点でなんとなく転と結の候補が診断チャートのように頭に浮かんでくる。クセの強いもう一人の受講者が来てマナー講師が加担する流れか、それか実際に結婚挨拶行くところまで場面が展開する?もう完全に答え合わせのメガネをかけてしまった自分の視界の端からぬるぬると登場したのが、警備員扮する「マナーを吸う蝶」。ひとたびこいつのくちばしでマナーを吸われると、先程までイキイキと襖の開け方を指導していたマナー講師も、途端に失礼と無礼を固めたみたいな振る舞いが口から止まらない体に。果たしてにしぶちの結婚の挨拶は成功するのか、そもそもなぜマナー講師達は蝶を野放しにしているのか...。飛び交う耳馴染みのない情報と警備員の洗練された「奇虫」ぶりに少々混乱したが、ややありがちな展開を突飛なオリジナルに引き込む。そのスピード感に引き込まれた。ハチカイのさらなる混沌に期待する。
2組目、屋根裏ハイツの演目「ナイト・オン・ザ・アース」は、終始ナンセンスな空気が漂う、これまた種類の違う混沌の世界だった。舞台は、映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』同様、タクシー。誰もが1度は会ったことのある独特な語り口の運転手がハンドルを握る1台のタクシーに、全く関連性のない男女が乗っては降り、ときに時間を遡り、ときに踊る。奇妙な日常に、奇妙な常識人が3人。最後まで解にたどり着けず客席に取り残されたままの感覚と、同時に尋常じゃない没入感を感じてしまった。お笑いでは絶対にありえないような、観ている方がドキドキしてしまうほどのゆったりとした間のとり方が妙に歯がゆい。そんなソワソワした気持ちまでひっくるめて、完成された「違和」を体験できた気がした。野暮を承知で、どうしたってこの絶妙なテンポ感を生み出すまでの練習量を想像してしまう。
 3組目の劇団アンパサンド、「サイは投げられた」。3組の中で最も王道の「コメディ」を演っていたように思えたのがアンパサンドであり、かたちとしては「おかしなことを真面目にやっている人達を、観客が常識人として観る」といった笑いの典型である。だが、決して「ドタバタコメディ劇!」の一言だけでは表せないのが劇団アンパサンド。舞台はある小会社のオフィスで、当たり前のように派遣が社員への悪態をつき、お昼休憩を誰からとるか譲り合う。限りなく日常に近い風景ではあるものの、そこで交わされる会話は「サイは投げられた」の全ての事の発端となる、枕投げについて。枕投げ未経験がコンプレックスの同僚に、今ここでそのクッションを躊躇なく投げろ、遠慮なんかするなと励まし、背中を押す派遣社員。これこれ!やっぱりただのOLあるあるなんかじゃないんだよ!と、そんな異質さに「アンパサンドみ」を感じて大喜びしてしまう。異常と日常を浅いところでいったりきたりしつつもスピード感は満載で、必死に追いかけながらゲラゲラ笑ってしまう。適度な疲労感のなか、もっと長尺で劇団アンパサンドを楽しめるいつかを、空想する。
 これだけお笑いや演劇の幅が広がっていく世の中で、まだ見ぬ「なんだそれ!」設定を求めてしまうのだが、本公演ではその欲求がじわじわと満たされた。唯一のお笑いコンビであったハチカイには、ツッコミというポジションの常識人がいるにも関わらず、劇団の2組は観客に常識人役を丸投げする構図であったのがなんだか奇妙だが、そんなところにテアトロコントの醍醐味を感じざるを得ない。(suama)

弱者目線から日常のモヤモヤをコントにするサスペンダーズ
【サスペンダーズ】
【集合写真】
サークルの旅行で観光地に来た際に、集合写真を撮ろうとしている。旅行を仕切っている幹事(依藤)と撮影を待つメンバー(古川)。依藤が細かく撮影位置を指示するのだが、合間に「ひとみちゃん、脚閉じて」とサークルのマドンナに対して、注文を付ける。それを聞いた古川は、「パンツが見えていたのではないか」と感じて依藤に詰め寄る。
バカバカしいコントではあるが、古川が「ジャーナリズムの敗北だ」と大声で嘆くなど、事象に対して、大袈裟すぎる言葉を選んでいることに思わず笑ってしまった。
【バーベキュー】
奥多摩でバイト仲間とバーベキューに来た依藤。準備をしていると、偶然(?)通りかかった知り合いの古川から絡まれる。詳細はネタバレになるので控えるが、この話では古川は常軌を逸した行動を取っているのだが、不思議と、「怖さ」より「哀愁を帯びたかわいそうな人」という印象を受ける。古川の思想や行動があまりにも器が小さく、かつ細かなところに行き届いておらず、頭の悪さを感じるのでそこが観客の同情を誘うのであろう。
【傘】
取り違いを避けるために、自分のビニール傘に目印を打ってコンビニに持って行った古川は買い物を終えて、傘置場で、同じ印を打った傘を発見して自分の傘と見分けが付かず困惑する。困惑している間に同じ目印を打った傘の持ち主である依藤が迷いなく、一方の傘を手にしたため残った傘を手に取る古川。しかし、傘を開いた瞬間に傘の骨が折れていることに気付き、「自分は傘の骨が折れていなかったため自分のではない」と依藤に迫る。
自分の持ってきたビニール傘が、コンビニの傘置場で他の傘と紛れた瞬間にどれだったか分からなくなるという経験はいわば「あるある」だが、予想がつかない展開に飛躍していき、かつ笑いが非常に込められていた。出色の出来の作品と感じた。
【差し入れ】
演劇サークルのOB(古川)が、後輩の舞台を観に行く際にいわばお決まりの「栄養ドリンク」を差し入れる。しかし、ほどなくして来場した同級生(依藤)は、差し入れに「ケンタッキーのチキンバーレル」を持ってきた。結果、後輩の反応が段違いであり、古川が依藤に「差し入れの質、上げ過ぎだろう」とクレームをつける。
展開自体は目新しいとまでは言えないが、古川の依藤に対する不満の言い方が豊富で、かつ、舞台を観に来たはずなのに舞台の上演を観ずに差し入れを買い直しに行こうとする、古川の狼狽ぶりが本当に可笑しかった。

サスペンダーズは、コンビの成り立ちが早稲田大学寄席演芸研究会という大学サークルであることも影響してか、本日のコント4本のうち、3本が大学のサークルやバイトの設定であった。いずれも設定が練られていて非常に面白かったが、【傘】のような、属性が「一般男性」となるコントをもっと観たいと感じた。
(あらっぺ)

渋谷も劇場も元気に。
《1》【サスペンダーズ】<コント師>2人組/演目:『集合写真』他、計4作品/★★★★☆/
「お前みたいなやつがな、確定申告でウソつくんだよ!」。サークル集合写真のポージングを探っている撮影者が、サークルのマドンナひとみちゃんのパンチラを見たのが許せない男子学生が場を騒がす『集合写真』。全体的に、入りがドチャクソわかりやすいのに、エロや知性に偏執的なこだわりや、異常な執着が見え隠れする部分に個性と伸びしろを感じる。このコンビの政治風刺コントもぜひ見てみたい。集合写真のフォーマットだったとしたら、パンチラに騒ぐ学生はあの隣国で、ヒロイン二人が米中で、ご機嫌取りのカメラマンが日本で、みたいなメタファーにしたら、このコンビはどんなパワーワードを出してくれるのだろうと、妄想が刺激された。
《2》【屋根裏ハイツ】<劇団>出演者:3人/演目:『ナイト・オン・アース』/★★☆☆☆/
真夜中、世田谷から渋谷に向かう間のタクシーの中、運転手、客の男性、後乗り女性、三人の会話劇。途中タブレットで流す音楽もムーディーでセンスを感じるが、会話もしっとりで淡々としているせいか集中力が途切れがちになってしまう。舟を漕ぐ客もちらほら。夜の国道246の持つ浮遊感が、インスピレーションを刺激する感覚は理解できたが、刺激か、華やかさを期待してしまう自分がいた。
《3》【劇団アンパサンド】<演劇人>出演者:4人/演目:『サイは投げられた』/★★★★☆/
「ごめん!やっぱり投げれない!」。何故か仕事中に、枕投げの決意が固まらず葛藤している女性社員とその友人社員。社員が抜け、契約社員だけで固められたチーム。愚痴が止まらないお局が、怒りにまかせて何度も投げた書類が華麗にゴミ箱に入り驚く一同。自分の特別な才能に気づき、枕投げでチーム全員を倒したお局は、外へ飛び出す。走り、泳ぎ、たどり着いたどこかの大陸で、サイを見て一言。「サイなら投げれる!」と叫び終焉。不条理劇のフォーマットで、荒唐無稽ながらバランス感覚があり、気が利いている。それでいて自然な笑いも取り、テアトロコントにもマッチしていた。枕投げに葛藤しする消極的社員も「受け止めることも枕投げなんだって!」と謎の気づきを得たり、、今日付でチームに入ってきた新人は、前半の小声の低姿勢から、低音の圧姿勢に変身したりと、変化でも飽きさせない。作演・全出演者女性が醸し出すキメ細かく丁寧に積上げられた、品と知性のある、イカれた不条理劇だった。
【総評】昨今の事象とは関係なく、予定が合わず半年ぶりに拝見したテアトロコントだが、渋谷が急速に活気を取り戻しつつあるのと同じように、劇場も熱を取り戻し始めているように見えた。Aマッソも吉住さんも空気階段もかが屋もニューヨークも、賞レースを総なめし、世の中がその才能を知るずっと前に、ここで知ることができた。知的で尖った笑いの拡散の一端はテアトロコントが担っているように思えてならない。困難の中、その役目を放棄せず、時代とともに存在意義が薄れ続ける演劇との融合点を諦めず戦い続けている事にさらなる感謝をしたい。今回も多くの学びを頂いた企画・運営・出演者の皆様に感謝致します。(モリタユウイチ)

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