渋谷コントセンター

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2019年5月24日(金)~5月25日(土)

テアトロコント vol.36 渋谷コントセンター月例公演(2019.5)

主催公演

公演詳細

テアトロコントvol.36(5/25)の演目
【ザ・マミィ】『霊能者』と『着ぐるみ』は、悩みを抱えた男が、霊能者やウサギの着ぐるみ(を着たおじさん)といった“異形の者”に会いにくるところから話が始まる。インパクトのある見た目とせりふ回しから、酒井さんが演じるキャラクターのほうが「ぼけ」なのかなと思ってみていると、林田さんが演じる一見普通の見た目の男のほうが徐々に暴走を始めて、酒井さんはむしろそれをみて驚き、常識的な判断で制止する側に回る。この、「ぼけだと思った人が実はまとも」という展開に意表を突かれる。途方もないことを言いそうな人がまっとうな反応を示しているのをみると、その落差に笑ってしまう。だから、『着ぐるみ』のおじさんが着ぐるみの頭部を脱ぎながら、焦りながらいう「お前あたまおかしい」という何の変哲もないせりふがとても可笑しく響いた。『大人になったら見えなくなる者』にもそうした要素が少し入っていた気がする。結果的に、わかりやすい異形の存在よりも、死んだ父親を今も恨んでいるとか、離婚して疎遠になった息子に会いたいとか、いい年なのに自立できていないといった人生の切実な悩みを抱えた存在のほうが、驚嘆すべきものとして一段上に置かれる構図になっているところがよいと思った。『総理大臣』は日本の総理大臣が主役で、アメリカの大統領にも少し言及する話。内容は現実とほとんど関係ないと思うが、この日ちょうどトランプ大統領が来日する日だったのでタイムリーだった。
【ワワフラミンゴ】『雨の一日』は、数人の男女があちこちで交わす会話を拾い集めた、スケッチ風の演劇。場所も登場する人たちの関係もはっきりとは明らかにされないが、対話の様子から親しい間柄であることは察せられる。流れのある物語を描くというより、発したそばから蒸発してしまうような日常の対話をそのまま舞台に移植しよう、定着させてみようと試みているような印象を受けた。その先に何かあるのか(あるいは「その先」が目指されているのか)は今回観た限りではわからなかった。最初の方の男女の会話で、女が、少しうねった短いひも状のものを取り出してテーブルに叩きつけ、男がそれをみて「遺伝子を傷つけるな」と返すやりとりがあって、なぜいきなり遺伝子のひもなのかは不明だった(忘れてしまった)けれども、比喩表現が日常の行為とリンクする瞬間(が確かに存在するということ)を表現しているようで面白かった。
【明日のアー】『山裾の雌犬たち、喋る』では、機械的な単純作業に従事する3人の女が、憂さを晴らすかのように仕事中に延々とお喋りを続ける、といったストーリー。幕開けの一瞬で登場人物たちの置かれた状況が大体飲み込めるのは、やはり演劇だなあという気がした。マイケルジャクソン、アップルストア、映画「カメラを止めるな!」など、ちょっとしたフレーズや仕草をひろって、そこから話題が一気に膨らみ、際限なく言葉が溢れ出し、全身で会話を交わしていく様子が観ていて楽しかった。ひとつひとつの話題が独立したコントのようで、しかし「仕事中」という大きな設定が背後にそびえているので、どんなにお喋りが盛り上がっても最後は仕事に戻って行かねばならない、というような悲哀も常に見え隠れする。高木珠里、笠木泉、中島愛子の3人の役者は笑いの息がぴったりで、せりふは個々にあてて書かれたかのように自然で、外見(特に髪型)のコントラストも絶妙だったので、最初は、この3人で20年くらい活動しているコントグループかと思った。この日(5/25)、明日のアーの公演中に地震があって(都内は震度3)、場内も一瞬だがけっこう揺れた。また、客席でiPhoneらしき着信音が鳴った(ちょうどアップルストアのやりとりの最中だったので、私は最初、芝居の効果音かと思った)。しかし、舞台上の3人は(気づいていなかった可能性もあるが)同じテンションで芝居を続けていて、プロの役者のすごさを目の当たりにした気分だった。
【パーパー】『記念日』『体育館裏』『魔法』『ドッキリ』の4本。全体に、男のキャラクターのほうが物語の展開を一手に引き受けている印象だった。三人合わせて星野ですさんの特徴的な声とそれを生かしたせりふ回しは一聴に値すると思う。あいなぷぅさんは立ち姿に終始“客演感”が漂っていたが、アフタートークではアグレッシブだったので、ネタでも内容にぐいぐい食い込んでいくところがみてみたいと思った。『魔法』ではせりふを飛ばしたとのことだったが、観ているときはまったく気がつかなかった。(大熊)


【明日のアー】の手作り精神に感動。
《1》【ゾフィー】<コント師>二人組/★★★★☆/
「えーこの度は私の軽率な行動により多大なるご迷惑をおかけしました。」。人気腹話術師の男が記者会見で謝罪をすると、腕に抱えた人形が目を覚ます。記者「女性のマンションから一緒に出てきたようですが、何をしてたんですか?」人形「むこうが誘ってきたんでしょ?」腹話術師「すいません!フクちゃん、どうして勝手な事言うの!」人形「だって向こうから誘われたんでしょ?おじさんは何度も断ったんでしょ?仕方なく行ったんでしょ?だったらー…問題ないんじゃない?」と勝手に弁解を腹話術で進める『謝罪』他計四作品。よく響く声で、声を聞いているだけでも心地よく、タイトルも『約束』『告白』『弔事』等、漢字二文字で統一したこだわりにも好感をもった。入院少年と野球選手、占い、謝罪、弔事、と全コントに共通するのは「決まり事になってる”そこまで意味ないセレモニー”を、皮肉とばして笑ってしまおう」というイタズラ目線だ。どんなに年を取っても、これなんか変だよねと笑い飛ばせる感覚を持っていたい。
《2》【ワワフラミンゴ】<演劇人>出演者:四人/★★☆☆☆/
「きれいな少女の横顔だと思っていたら、舌を出した猫だったんだよ。」「何その話。目が悪いの?」「なんか悔しそうだね」「すごい坂になってる土地しかもらえなかった。平になってる土地が欲しかったのに。」「土地って言われると欲張りみたいな気がするな」「言いたいことも言えない世の中だ」「言ってもいいよ」「冷蔵庫買ってよー!」。冒頭から支離滅裂な会話が進み、唐突に片方がいなくなると次の登場人物が現れ、会話が始まるが、そこもまたズレていて…といったまま展開する『雨の一日』一作品。今は無き下北ファインホールでの公演や、おなじみのカフェ公演など、彼女たちを誰も知らない頃から幾度となく拝見し、自分の公演でもゲストとして上演した頂いた仲でもあるが、劇団に固定ファンがついてからと言うもの、全くお誘いがこなくなった今では疎遠となり、今ではテアトロコントで拝見することが主となっている。独特の噛み合わない浮遊感とブラックユーモアは健在だが、テアトロコントが進化してきた多彩でパンチのある空間と、ワワフラのゆるふわ世界観が若干噛み合ってないような印象も受けた。他の出演者とのバランスのせいなのかそうでないのかは分からないが、床の集音マイクがあってもなおあの声の小ささは、集中力が途切れがちになるのは否めない。小ホールとはいえ、あれで12月の本公演である東京芸術劇場で声は届くのだろうか。余計なお世話は承知な上で、若干心配になった。
《3》【明日のアー】<演劇人>出演者:三人/★★★★☆/
「やってるとおわる♪それはほんとうの話♪」。歌って包装仕事の退屈を紛らわしている女性三人が、残り30分を喋り倒してやり過ごす『山裾の雌犬たち、喋る』一作品。前回出演時の『会話表現』、前々回出演時の『ギフテットクラブにようこそ』に比べ格段にわかりやすく、かつ楽しみやすくなっていた。女性三人によるコントは、とかく「ぬるく」なりがちなものだが、カメ止め、内村航平、時間遅進薬、アップルストア、金運の黄色、婚活アプリなど多彩な話題で見事に30分駆け抜けた。小道具も全て主宰が作り、稽古場に荷物を持ってこれるよう自転車も改造しているという情報をアフタートークで聞き心底感心した。優れたモノづくりは、舞台の上だけでなく、炊事洗濯など、生活する全ての物事にも対応してこそ継続できるのだと言うことを教えられたような気がした。自分も家電や様々な機材が増えた時、電気配線くらいは自由に作れるよう、まずは電気工事士二種の試験を受けようと思う。なんせ時代はIoTだ。間違っても泣いてる顔文字ではない。
《4》【GAG】<コント師>三人組/★★★★☆/
「福井君みたいに仕事ができるようになるにはどうしたらいい?」と、同期に仕事を教わるふりをして、逆にチームワークを教える『喫煙所』他計三作品。全ネタがポジティブだったのが一番素晴らしかった。笑いを生み出そうとする時、自虐的に暗い人生を描いたり、相手を貶(おとし)めて笑いをとろうとするコントはよく見かけるが、今日より明日、明日より明後日をより良くしようという上昇志向をネタに感じるコンビは珍しく、観後感がいい。”人は幸せになるために生きている”という当たり前の事を感じさせられるコンビは貴重だし、どうか今後もその信念を貫いてほしい。
【総評】作品としてはGAGが一番好みだが、明日のアーの手作り精神に心を打たれた。今回も学びの多い公演に感謝。(モリタユウイチ)


苦手な人との付き合い方マニュアル
「あの人、ちょっと苦手なんだよな…」そう思う人、一人や二人、三人や四人、いや、それ以上は必ずいるでしょう。なるべく関わりを持ちたくない。じゃ、どうすればいいか?答えを知りたい人には、GAGのコントがオススメです。
会社の喫煙所で一服する福井さんと宮戸さん。そこに、見るからにチャラ男でパリピ、ダメな人は生理的に全く受け付けない坂本さんがやって来る。仕事終わりのキャバクラが何よりの楽しみ。そんな雰囲気を全身に纏いながら、誘いの声を投げかける。宮戸さんの方に。でも、宮戸さんはキャバクラが嫌い。かと言って、断る勇気も持ち合わせていない。坂本さんがノリノリのテンションで去って行き、陰鬱な表情で立ち尽くす宮戸さんに、福井さんが不敵な笑みを浮かべながらアドバイスを送る。話しかけられたくないオーラが出てないからダメなんだと。皆さんも、人に話しかけられたくない時、そんな空気を出したことあるでしょう。でも、何故か、話しかけられてしまう。どうしてでしょう?オーラの出し方が足りないからです。人の気も考えず、ズケズケものを言ってくるタイプの輩は、極めて鈍感力が高いので、些細な表情や微妙な空気を感じ取ることができません。だから、一見、やりすぎとも思えるほどの表情や仕草でバリアを張ることが必要となります。恥ずかしがっていてはいけません。照れがあって、演技が振り切れていないと、宮戸さんのように再び、ハイテンションで話しかけられてしまうという災難に遭います。人間、勇気が肝心です。
ただ、話しかけられやすい人には、思わぬ幸運も舞い込みます。日頃、心の中では嫌だとしても、作り笑顔で付き合っていたご褒美と言えるかもしれません。坂本さんがいつものようなノリで熱くプレゼンしたのでしょう。その提案が通り、プロジェクトメンバーにと宮戸さんに声がかかったのです。こういうことがあるから、人付き合いは大事です。
そのやりとりを目の前で見せられ、途端に動揺し始めた福井さん。自らに張っていたバリアが仇となったのです。と思いきや、何と何と、日頃、自分をシャットアウトしていた福井さんもメンバーに入れてくれていたという事実が発覚。坂本さんは鈍感力の強さゆえ、自分が避けられていたことさえ気づかなかったのかもしれませんが…。
このコントを観て痛感するのは、思い込みがいかに不確実で、当てにならないかってこと。偏見という名の鎧を脱げば、人はもっと楽に生きることができるのです。GAGのコントは問いかけます。人間の本当のやさしさって何?(市川幸宏)


アクシデンタル
ザ・マミィ『霊能者』霊能者まつのぼうのハチャメチャ降霊術。お父さんにもお母さんにもレッツ憑依!『大人になったら見えなくなる者』さかまるは、大人になると見えなくなってしまう存在。の筈だったが20年後もガッチリ見えているさかまる。おまえに私が見えるのは条件を満たしてないからだと怒り草木を生い茂らせるさかまるは就職や結婚などの大人になる為の怪しいセミナーを始めるのだった。『総理大臣』駆け込んで来た秘書が言う。「大変です!音声が流出しました!これを聞かれたら総理に童貞疑惑が!」総理は「しょうがないじゃん!言うタイミングないじゃん!」アメリカからは「チェリーパイで会食しましょう。」とガッツリいじられる総理。追い詰められた総理は一か八かのカミングアウト。そこで待っていたのは勇気をもらった国民達の喝采であった。『着ぐるみ』かわいいウサギの着ぐるみウーちゃん。の中の人ソネヤマとウーちゃんに癒しを求めつつ拗れた世界観を持ち込むハヤシダとの攻防戦。ザ・マミィ全体のネタ選びが空気階段と少し似ているなという印象を受けた。
ワワフラミンゴ『雨の一日』意見の相違、合意。くやしそう。斜めの土地じゃなくて平らな土地がいい。出てこないブーム。帰ってきた月。遺伝子トーク。マジック見た目はヒモ。油そば。映画館1人で。ミルフィーユ。山びこ。抑制。見えてない女ひどいマインド。タヌキ「里」カラス無視されていた。ハートマークは逃げも隠れもしない。オススメデート。別れるのが悲しいデートはいいデート。自分より小さいもの。ジビエ。そして雨が降ってきた。
ガールズトークでもない軽演劇でもない知らない町の風景の感触だけが手に残った。
明日のアー『山裾の雌犬、喋る』単純作業に従事する3人の女性。こちらはコメディに真理を散りばめた様な味わい。♪やってると終わる これは本当の話とオープニングで歌ってみたり、「言わなくていい事は、言わないで。」と言ったり。そこからナンセンスへの振り幅。今回、演出の大北氏の作品を生で初めて観ました。ワークショップの記述などを見ていると言葉・会話・おしゃべりを幾重にも重ね、そこから更に要素を足して引いて、膠着させ、人を入れ替え、そうやって編んできたものを1度全て解き、また編み上げる。それを繰り返したものを舞台の上で展開させていく。この実験はまだまだ反応し変化していく様相だ。
パーパー『記念日』彼女に契約満了に際しての2年更新を求められる。更新料は10万円。渋々了承するも返される指輪。「ゴメンなさい。」「エッ!?」「好きな人がいるけど20万なら可。」オークション制導入。『体育館裏』女の子に告白しようと待っていると別の女の子・山田さんが来て逆に告白される。まさかの展開に後日FAXで返答しますと言うが食い下がってくる山田さん。そこで保留を提案。「ハシモトさんに告白してもしダメだったらあなたと付き合います。」上からいって普通に自爆。『魔法』娘の魔法使いの相手を2時間しんどい。そこにお父さんに会社からリストラの電話。うなだれるお父さんに娘が「あなたの悩みはなんですか?」この辺りで痛恨の段取りミス。進行が微妙な感じに。リストラの原因はお父さんの居眠りでした。『ドッキリ』エリちゃんへのサプライズプロポーズを仕掛けるが上手くいかずナイフを突き付けられることに。すいません前の空気を引きずってしまい正直ちゃんと観ることが出来ませんでした。オチだけ書いてもアレなので。
今回はザ・マミィのコント中にもアクシデントでミニ流血があったりした。これはライブの醍醐味でもあり、そこからどうやってリカバリーするかで演者の実力が際立ったりすることもある。そしてやはり演者たちはギリギリのボーダーラインの上にいるのだと再認識した。だからこその熱狂なのだとも。(イトモロ)

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