渋谷コントセンター

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2022年7月29日(金)~7月30日(土)

テアトロコント vol.57 渋谷コントセンター月例公演(2022.7)

主催公演

公演詳細

学校教育の諸問題における解決法
学校の授業は何故、つまらないのか?教員のスキルが圧倒的に足りないからではないでしょうか。「難しいことを易しく、易しいことを深く、深いことを面白く」伝えるという井上ひさし的スキルが。でも、それを全教員に求めるというのも酷な話で…。では、この課題を解決するにはどうすればよいのか?教員のスキルが足りないなら、生徒がそれを補えばよい。誰もが気づきそうで気づかなかった回答をコントで提示したのが、人力舎期待の酒井駿さんと細野祐作さんのコンビ、ネギゴリラです。
これといった特徴もなく、ごく普通に授業を進めようとする教員の言葉の端々に単純な相槌や疑問を挟むだけで、どうでしょう?俄然、聞き手に興味が湧いてきます。この役目を生徒の誰かが務めれば、事は解決するのです。お笑い好きの方ならピンと来たかもしれません。これは古くからある漫才の手法です。教員役の細野さんは「裏回し」と表現していましたが。どうということのない話でも、相方が小気味よく合いの手を入れれば、退屈せずに聞けるものです。大したことない教員のボケにも敢えて強いツッコミを入れれば、場は盛り上がります。さらに、この手法は教員以外の第三者に対しても絶大な効果を発揮します。教員に当てられた生徒が答えられず、教室に気まずい空気が充満しそうになった時、合いの手役の生徒がさりげなくヒントとなる言葉を発し、間を埋めれば、教員も生徒も助かります。このシステムは授業を楽しく円滑に進めるうえで極めて有効だと教育関係者の方に声を大にして言いたいものです。
学校教育において未だ解決されていない問題にはイジメもあります。ネギゴリラの二人はこの問いにも、一つの打開策を見出しました。パシリ役の酒井さんは、いつものように焼きそばパンを買って来いと言われると思い、予め人数分のパンを買っておき、「今日は冷え込むから」とあったかい飲み物と共に差し出します。お腹周りを気にしている不良にはトクホのコーラ。気が利いています。不良グループも彼を高く評価しているのか、実際の飲食代以上のお金をパシリに払います。こうなると、もうイジメではないような気もします。パソコンを立ち上げ、「今日のデータを整理して明日以降に活かすんだ」と意気込むパシリ。「クライアントの希望を叶えたい」と。なるほど、パシリという労働に対する報酬を受け取っているので、不良グループはクライアント。彼らの要望を上回る働きをすることで信頼関係を構築すれば、その立場が逆転することもあり得る。全ての事例には当てはまらないものの、問題を解決する手法の一つとして、私たちに示唆を与えてくれます。ネギゴリラ、恐るべし。(市川幸宏)

会話のリアリティ
「お笑いトリオのぎょねこが急遽休演となったテアトロコントvol.57。得体の知れない雰囲気を醸し出すコンビ元祖いちごちゃんと、男女八人組のダウ90000のツーマンという、今後一生見られないような座組みの公演となった。見た目からして芸風の異なる2組だが、その2組が披露したコントを観ると、登場人物の会話のありように特に違いを感じた。
元祖いちごちゃんのコントは、細身でとどこか異様なオーラを持つハイパーペロちゃんに、強面の植村がツッコむというもの。一応はボケとツッコミが分かれているというものだが、2人の掛け合いには独特の間がある。1本目の『雨』はハイパーペロちゃんが恋人と見間違えて植村にキスをしてしまう、という場面から始まる。日常では考えられないような状況に笑ってしまうのだが、笑えてしまうということは、1つのコント、物語として成立する、ある種の説得力があるからだろう。では、それはどこから生じるのか。この答えが先に述べた2人の掛け合いの間であろう。突然知らない人にキスをされるという有り得ない状況。それに対して大袈裟なツッコミで反応してしまったら、嘘の世界になりすぎて白々しくなってしまうだろう。しかし、ツッコミの植村は1つ間をつくり、すぐに反応しないで観客と共に「今何が起こったのか?」とその場の状況を噛みしめる。こういった会話の妙がコントに説得力を持たせて、観客を笑わせてしまうのだろう。元祖いちごちゃんの強みは、あり得ない設定の中に会話によってリアリティを生み出すことのできる演技力といえるだろう。
それに対してダウ90000のコントである。彼らのコントは一見するとリアリティのある人間の会話の噛み合わなさ、すれ違いをうまく表現している。会話が脱線して全く成立しない『まちがいさがし』や、友達が話す彼氏の愚痴や不満についていけず、無理やり話題をつくろうとする女の子を演じる『赤裸々』など、元祖いちごちゃんにくらべれば「ありそう」な状況をうまく作り出している(『真夏の夜の夢』というコントがあり、これは松任谷由美の「真夏の夜の夢」に合わせて、ファストフード店で隣の席に座った客のメニューを全て食べてしまうというシュールで例外的なコントであったが)。彼らのコントを見て笑えるのは、リアルな人間の一場面をリアルに演じきって、共感や違和感を与えるからだとも考えられる。しかし、彼らの演技、特に会話をじっくり聞いてみると、私たちが日常生活で他人としている会話とずいぶん違う。彼らのコントの登場人物は、不自然な相槌や反応の少ないテンポの良い会話をしていて、あまりによくできすぎている。この会話のテンポのよさは、よくありそうな状況をコントとしてコミカルに表現する彼らの技術だろう。
元祖いちごちゃんはありえない状況をリアリティある会話で表現する。ダウ90000はリアリティある状況をすこしあり得ないようなテンポのいい掛け合いでコミカルに表現する。全く正反対のコントの技術を見せられた今回のテアトロコントは、結果的に挑戦的で内容の濃い公演となった。(永田)

奇跡のツーマンライブ
《1》【元祖いちごちゃん】<コント師枠>二人組/演目:『雨』他、計6作品/★★★☆☆/
「最悪…雨降ってきたよ…早く帰ろ」と家路を急ぐ男性。そこに「ちょっと待ってくれよ!」と男性が駆け寄り、男性にむかって突然、濃厚なキスをし、「接吻」(中島美嘉カバーVer.)が高鳴る。「色々あったけど、もう一度やり直そう。(指輪の箱を開け)僕と結婚してください」とプロポーズ後、「……間違えた」と、人も性別も盛大に間違える。「…十年間付き合ってる彼女が喧嘩して出ていっちゃったんです」「…………似てた?」「……こういうの、理屈じゃないから」「……俺のことはもういいから追えよ」と言われ男性は去るが、すぐにかけ戻り、「つかってください!」と傘を差し出す。受け取り傘が開いた瞬間、再び濃厚なキス。再び「接吻」(中島美嘉カバーVer.)高鳴り、「お礼のキスです!」…という『傘』他計6作品。初見。ボケ担当のハイパーペロちゃんの、ネタ中の相方との物理的距離感が近くて、コントだとわかっていても圧迫感がある。全ネタ、この方を引き立てるためのコントづくりで、客席も圧倒的に男性中心に湧いていた。ご本人は「ライブシーンの最地下からやって参りました」と表現していたが、ネタ自体はアングラというよりは、ちょいサブカルといった印象。意図も理解できて面白いのだけど、少し苦手。その原因を帰り道考えてみたら、(あくまで作品的に)低知性キャラをメインにし続ける笑いが、若干単調に感じ、胃もたれしてしまうのかもしれない。逆にネタによっては、薬を飲むと1分賢くなれたり、裁判中、弁護士として論破するようなネタが挟んであったりしたら、さらに魅力的なコントに感じたかもしれないとも思ったが、爆笑していた多くの男性客はそんな事は一切求めていないような気がするので、結局はただの好みの問題。
《2》【ダウ90000】<劇団枠>出演者:8名/演目:『上司の話』他、計5作品/★★★★★/
男性上司「それで部長怒っちゃってー。…ほんと大変だったよ」。バーに座りエピソードを語る上司男性と部下女性。それを自然と盗み聞きし楽しむ別客の男女二人組。上司男性のエピソード締め言葉”…ほんと大変だったよ”のフレーズ時、左右どちらの腕で頬杖をつくかを賭けあう『上司の話』他、計5作品。こちらも初見。多人数会話劇なので、レビューでセリフを網羅するのは不可能だが、男女グループ特有の身内感がなく、会話スピードも自然で、かつよく練られた思考の工数を感じ、転換BGMもセンスがいい。日芸出身が関係あるのか、伊集院、爆笑問題、ラーメンズ等の系譜を感じ、元祖いちごちゃんと対称的に(あくまで作品的に)知性を感じ、個人的には好みだし、劇団枠でもコント枠でも出れそうな所はもはやチート。会話劇に若干疲れた所で、松任谷由実「真夏の夜の夢」に合わせ、マックのハンバーガーを盗み食いする音ハメ作品『真夏の夜の夢』を挟み、ほどよく休憩させながら楽しませる所もちょうどよく、特に不満も要望も浮かばない。一つだけあるとすれば、グループ名にあわせて、いつかNYダウが90000到達時に大きめな記念パーティーをしてほしいので、少なくとも10年以上は右肩上がりに成長してほしい。
【総評】過去最大の流行病拡大ターンで公演中止も相次ぐ中、テアトロコントもぎょねこさんも出演キャンセルとなり、急遽一本ずつネタを追加しての開催となった金夜回。「奇跡のツーマンライブ」とTwitterで評されていた通り、スケールはスモールとはいえ、会場の熱気だけなら同週開催のフジロックにも負けてなかったんじゃないかと思う。YouTubeやサブスクと流行病ですっかりライブの価値はなくなったとも思いこまされていたが、逆にこういう時のために舞台やライブがあるんだと気付かされた日だった。夜明け前が一番暗い。今回も沢山の学びを頂いた運営・出演者の皆様に感謝致します。(モリタユウイチ)

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