渋谷コントセンター

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2023年8月25日(金)~8月26日(土)

テアトロコント vol.63 渋谷コントセンター月例公演(2023.8)

主催公演

公演詳細

エモーショナルな大声をどう自然に表すか
25日の公演で一番好きだったのはかが屋の『ボイトレ』という演目だったのだが、その話をするために一つ前に出ていたグループについて思ったことを書く。
2番手で出演した3人組のコントユニットが披露した演目が、どれもツッコミ役が大きな声でリアクションを取っており、それが妙に気になった。大声や大きなリアクションは日常生活においては不自然なもので、「大声を出しているこちらのほうが常識人です」という表明は明らかにご都合主義である。”コントと演劇のボーダー”を標榜する『テアトロコント』という場において、ツッコミ役が大声でリアクションを取ることでボケを引き立たせてウケを取りにいく手法を見ると「まだこの位置なのか」と思ってしまう。不自然なエモーションのツッコミでボケや話の筋を分かりやすく説明してくれる演目を観るために『テアトロコント』に来ているわけではない。
「大人が大きな声を出す」という観点で思い出すことがある。それは第1回目の『テアトロコント』のナカゴーで、「とんかつ和幸のしきたりで、店長のホームパーティーでアルバイトたちの右腕が切り落とされる」演目である。私にはそれが衝撃的で、この10年の間で一番笑った出来事であった。大人たちの阿鼻叫喚、リアクション。そこに道理はない。「舞台上でこんなことが行われていいのか」と思った。そしてここにツッコミという役割なんかは存在しない。役割に左右されないリアリティがそこにはあった。
そんな風に、大声とリアクションの不自然さについてモヤモヤした思いがあるなかで、3番手で出てきたかが屋の1本目の演目が『ボイトレ』であった。加賀演じる女性のボイストレーナーが、賀谷演じるレッスンを受けに来た男性に歌の手ほどきを行う。「大地から足が生えてるように~」と多少脚色のある台詞を大声で言われても、「ここは防音室で歌の練習に来ている」というリアリティによって自然と聞こえる作りになっている。また、大声でエモーションを自然と発生させる技としての”歌”の使い方を示してくれた。そして好きだった女の子に彼氏がいることがわかったあとに歌われる「君を忘れない~」というスピッツ「チェリー」の歌い出しの自然さと感情の吐露。大声とリアクションのエモーションをどう自然に提示するかの一つの回答を見た気分だった。もちろんすべては台本上の流れなのだが、それをご都合に見せないように、自然と存在するように見せることがコント師の技なのだと思った。(カンノアキオ)


さくらももこって、2023年にもいるのかも
ついオカルトっぽいタイトルをつけたくなってしまうほど、信じられない体験をした8月のテアトロコント。
その立役者は画餅。『天才少年』、この夏の宝物です。私はこれまで、学生を主役にした神谷さんの作品を見たことがありませんでした。神谷さんの言葉が引き出す大人たちの怪しさはいつも完璧で、それだけでもうお腹いっぱいで、じゅうぶんでした。でもだからこそ、今回の『天才少年』は一際きらめいて見えました。
クイズ研究部のみんなが愛おしくて仕方なくて、その前の日も後の日もずっと見ていたかった。きっとこういう日常が人を生かすんだ。生きるのに一番大事なのは、名前もつかないような日常の風景なのだと気付かされました。そして何だか日曜の夜を思い出したのです。夏の日曜、家族で『ちびまる子ちゃん』を見ながら食卓を囲む夜。それこそ名前はついてないけど、何だかんだ人を月曜に送り出してくれるあの夜。あの夜がくれる後押しを、たしかに画餅からもらいました。毎度異なるチームでレンチキュラーな表現に挑む画餅だからこそそんな日常に辿り着いたのだとしたら、これぞ「理想的なお餅」。これから先ずっと、夏が来れば思い出す、一生忘れることのない作品です。
破壊ありがとう。全身でぶつかってきたエネルギーだらけの3本。その力強さは決して若さや想いの強さだけのせいじゃない。どのコントにも彼らだけの確かな信条が見えて、カルト的な瑞々しさを感じました。その瑞々しさゆえ、何というか、心を掴みにいくスピードが超速い。たとえば「明日から公務員になるから入社前日に予行練習で出社してきた」という『3月31日』の最高シーン。オリジナルで的確な設定に、一気に引き込まれました。「でも実はその子は昔ヤバかった」「教科書とか燃やしてた」なんて聞いたら、一体いつどんな心変わりがあったのかとか、どうして公務員を目指すことになったのかとか、コントで語られていないことまで気になってくる。もしかして10分以上のコントになったら、より爆発的で魅力ある作品になるのかも知れません。楽しみで、怖い!しかも今回の3本、同じトリオの作品とは思えないほど表情が違って見えました。きっと出来ることにもやりたいことにも溢れてる。やっぱり怖い!
かが屋。もう長いこと、2人のコントを観るたび「人間はかわいいのだ」という言葉を頭に浮かべています。もし自分もそのかわいい人間のひとりで在れるのなら。そう思うと、生きるのが少しだけ楽になる。かが屋はずっとそういう、かが屋だけの特別な処方箋を保ちつづけたまま、恐ろしいことに、年々マッチョになっている。過去のコントだってもちろん一生の処方箋。だけど2023年のかが屋のコントは、守ってくれるじゃない。何だか人をアクティブに、盲目的に、チャレンジングにさせてくれるような、獰猛なマッチョさがある。人の心を治癒するマッチョ。私だって、こんな言葉をかが屋に充てがう日が来るとは思いませんでした。だけど。ずっと生きるのを少しずつ楽にしてくれていた人たちが、今度は生きていくことの伸びやかさを教えてくれる。こんなにもいじらしく、そして勇気づけられることはありません。
憶測だけど、きっとかが屋は転んだ人を笑うと思う。笑いながら手を引きあげて起こしてくれて、あれ何か転んでよかったかも?って思えるような、恥ずかしいけど大事な思い出にしてくれると思う。それがかが屋のあったかさで、2人のコントを見たあと、私たちまでちょっといい人になれた気がする秘訣なのだと思います。
最後はラブレターズ。ラブレターズは私の中で、はっきりと狂いの人たちです。まだ知らないコントに出会うたび、新しい「狂地」へ連れて行ってくれる。乱気流真っ只中の飛行機になぜか安心して身を委ねているような気持ちで、客席にいました。
コミカルオバケの溜口さんが炸裂、ラブレターズを浴びる『初めましておにいさん』(山田洋次っぽいタイトルも良すぎ)。ずっと噂だった『ホームビデオ』は蓮見さんの2人への理解と愛の完成品、観られてうれしかったです。『ワンダーペイ』って生で見たらこんなにヤバいんだ、のびやかに響く決済音が3人目のラブレターズみたい。最後の『光』はあまりにも素敵で、狂いの人たちがこんなに神々しい話をするなんて規約違反と言いたいです。ああ乱気流。はあラブレターズ。ケミカルでコミカルで、輸入菓子の詰め放題みたいな、ピエロだらけの原色テーマパークみたいな、ラブレターズが王様の国はきっと愉快この上ないんだろうな。きわめて不思議できわめて最高な30分でした。
レポートを書き終えてユーロライブのサイトを眺めていたら、「渋谷コントセンター」のキーアイコン、さくらももこさんが描かれたものだと初めて気が付きました。嘘でしょう。これまでもこれからも、ずっと、いてください。(ごとうはな)


二人を見つめる、もうひとつの眼。
「昨日、ここのエレベーターでキスしたんですけど、監視カメラの映像って貰えますか?」
こんなパンチの効いた質問を浴びせられたら、店員は自らの耳を疑い、薄気味悪がって聞き直すしかありません。店員役は溜口佑太朗さん、客役は塚本直毅さん、東京の中堅コント師として脂が乗り切っているラブレターズのコントです。
客はぐいぐい押すばかり。ファーストキスなんだと。37歳になって初めて彼女ができたんだと。向こうも初めてなんだと。さらに店員のファーストキス体験を聞き出し、その異常性を知らしめます。苛立つ店員は何とかかわそうとしますが、客は目を血走らせて迫ります。
「大事なファーストキスなんですよ」「そんなに大事だって分かってるんだったらカラオケ館のエレベーターですんな!」
ここで初めてその場所がカラオケ館であることが明かされます。巧いですね。ワードチョイスも見事で、言わんとしてることがよく分かります。しかし、客は怯むことなく映像を要求。そして、意外な事実が明かされるのです。彼女の年齢は20歳。19歳の時から付き合っていたけど、未成年の時には指一本触れず、誕生日を迎えて成人したので、ファーストキスをしたんだと。店員の脳裏に複雑な感情が渦巻きます。「おまえの印象次第で賛否が凄い分かれる恋愛してるんだから」。出ました、観客を鷲掴みにするキラーフレーズ。ラブレターズのコントは『東京03の好きにさせるかッ!』をはじめ、数々の番組や舞台で作家としても華々しい活躍をしている塚本さんが書いているケースが殆どですが、この作品はさにあらず、ダウ90000蓮見翔さんの脚本です。それを完全に自分たちのものにし、違和感なくラブレターズ作品として成立させているのが二人の凄いところです。さらに、ここで注目したいのが作家ではなく演技者としての塚本さんです。作家としての塚本さんはこの日のコント「初めましておにいさん」のように相方の溜口さんにキャラの強い役を割り振り、塚本さんは受け芝居が多い印象があります。それも自然なリアクションが心地よく、味があっていいのですが、実は塚本さんには狂気を秘めた部分があり、それが溢れ出した時の爆発力が凄まじいのです。ご自身はそこに気づいているのか、敢えてそれを抑えているのか…?もし、作家としての自分がストッパーになっているのだとしたら、蓮見さんをはじめ、他の優秀な作家からどんどん作品を提供してもらうべき。ラブレターズが異次元に飛躍するカギはそこにあるのかもしれません。(市川幸宏)


傷ついた人のためにコントはある。
《1》【画餅】<演劇人枠>出演者:男女7名/『天才少年』1作品/★★★☆☆/
女子学生「ほんとは小6なんだけど、飛び級で学年あがって高校来た子がいるの。12歳で高校。入学前に高1、高2の試験をクリアして今日から高3。高3も二学期までで、卒業してアメリカの大学行くんだって。すごくない?」。飛び級の天才少年が、クイズ研究部に入部した数カ月だけの高校生活を描く青春劇。同姓同名の美人。留年で坊主だが身体能力とコミュ力高い人気者。知性だけでは測れない魅力と多様性が、天才少年の新たな刺激になっていく様が描かれ、素直に楽しい。少年役の実年齢も近いらしいがあまりに自然すぎて意識せず見てしまった。ショートピースをテンポよく繋ぎ見やすいが、演劇としても見ると暗転が多いのが少し気にはなるといえばなる。テニスコート神谷さんの単独企画だけあり、選曲や題字デザインなど、随所に気の利いたセンスが感じられた。
《2》【破壊ありがとう】<演劇人枠>出演者:男女3名/『3月31日』他、計3作品/★★★★☆/
女子学生「羊が降ってきそうな空…今日も教科書集めてきた?」男子学生「数学と英語で10冊ずつ」女子学生「そう…じゃあ始めましょうか」。明日4月1日から区役所に勤める新卒男性が、中学時代、共に学校中の教科書を盗んで燃やす問題行動を起こした同級女性”佐伯さん”と偶然レストランで再会する。佐伯さんは昔の自分のような男性と食事をし、変わらぬ独創的な言語感覚で男性を支配している姿を見て、当時、青春の全てだった自分を思い出し、戸惑い、見悶える。佐伯さんに気付かれ、明日から区役所勤めをする自分を隠そうとするが、彼女は全てを悟った雰囲気で「ありがとう…昔も今も、ずっと楽しかった」と伝え去っていく演目『3月31日』。佐伯さんという名前からも、漫画『惡の華』の風味をビシバシ感じるが、個人的には大好物。支配的女性と二人きりで破壊衝動をした思春期を宝物に抱えながら、区役所で”ふつうにんげん”になっていくのだろう。もう一つの演目『運命』も同級女性に進路を翻弄される大学生の話で、こちらはもはや”ふつうにんげん”に戻れない洗脳感があり、思春期は十代のうちに拗らせておくことの大切さを感じた。
《3》【かが屋】<コント師枠>男性2人組/計4作品/★★★★★/『占い』他、計4作品。
男性客「…僕、好きな人がいるんですけど…その人、結婚してるんです」。女性占い師「ほらな!クソったれ!」。同姓同名のお客さんから占いを頼まれ、一度は断るも、強く頼まれしぶしぶ見ようとすると、やはり同じような既婚者への恋で苦しんでいて、共感しあった末に、互いを新たなパートナーとして認識してしまう演目『占い』。久しぶりのかが屋だったが、優しく愛のある視点は変わらず、強く鋭く進化し、圧倒的だった。テレビでは尺のせいかここまでの凄さは伝わりづらい気がする。
【総評】8月中旬にパートナーが緊急入院したおかげで、ボロボロの心身を引きづって来てしまい、正直楽しめる自信が無かったが、むしろ傷ついた人のためにコントはあるものだと見ているうちに気付かされ、救われた。満席の客席の中、今回も沢山の学びを頂いた運営、出演者の皆さまに心から感謝致します。(モリタユウイチ)

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